歯科衛生士業務控 エピソード3

平成27年7月27日(月) 東愛知新聞掲載

前回に続き、今日も豊橋市内の某歯科医院のふと気になった日常の一場面を、勤務する歯科衛生士の私がご紹介し、歯科衛生士ワールドの一面に触れていただきたいと思います。歯科衛生士はまだまだ人出不足、この記事を読んだ若い女性が歯科衛生士という職業に興味を持つきっかけになればうれしく思います。仕事に興味を持った方は豊橋歯科衛生士専門学校のオープンキャンパス(7/30、8/20開催)に是非ご参加ください。  
 ある日のお昼前、近所の保育園から電話があり、園児が遊具から落ちてけがをしたので診て欲しいとのこと、急患としてすぐ来院してもらうことになりました。約10分後、保母さん2名に付き添われてやってきたのはSちゃんという5歳の男児でした。Sちゃんは以前から当院に定期的に通院しており私とも顔なじみ、ほんの一週間前にも受診し私がフッ素を塗ったばかりです。  
 保母さんと診療室に入ってきたSちゃんは院長が付き添いの保母さんに問診している間も泣きもせず、神妙な面持ちで診療用チェアに一人で座っています。泣いた後なのか涙の跡がありましたが、その時は唇の傷からの出血も涙も止まっていました。院長が口の中を調べている間もおとなしくじっとしています。つい最近までフッ素を塗るのを泣いて嫌がり診療室中を逃げ回った子供とは思えないほどの堂々とした態度です。幸い下唇の傷は軽く歯にも異常はないようです。下の前歯が少し動きますが、これは一週間前フッ素を塗る時にも気付いていたので、おそらく永久歯に生え変わるためで今回のけがとは関係なさそうです。その旨を院長に申し添えました。  
 けがの状態を院長が保母さんに説明している間Sちゃんの手を握りそっと話しかけてみました。「怖かったね、でもがんばってえらかったね」するとびっくりするほど強い力で私の手を握り返しこらえていた涙の堤防が再び決壊しそうになったのであわてて頭をなでて、「さあ終わったよ」と努めて元気な声で言いました。  
 いつもお母さんと来院し、診療中もお母さんが傍らで手を握っていることを必ず要求し、時々泣いて今でもちょっと手のかかる甘えん坊のSちゃんですが、この日は保母さんの手前Sちゃんなりのプライドがありおとなしく堂々としていたのかもしれません。精一杯我慢していたのに急に顔見知りのおばちゃん(つまり私)に思いがけず優しい言葉をかけられ我慢の糸が切れそうになったようにも感じました。いつもの甘えん坊とはちょっと違うSちゃんの別の面を見た気がし、案外我々大人が考えているほど子供も単純ではないのかもしれないと思いました。この次にフッ素を塗る時はお母さん抜きで診療室に入って来てもらおうかと考えています。この日のことをSちゃんの前でほめてお母さんに説明すれば、きっと大丈夫だと思います。