口腔ケアで誤嚥性肺炎の予防を!

平成27年9月7日(月) 東愛知新聞掲載

口腔ケアという言葉を聞いたことはありませんか?
 ケアという言葉の意味から、お口の中を綺麗にすること、お口の中の世話をすること、お口の中の介護をすることなど、様々な意味を持ちますが、お口の中の衛生状態を綺麗に保って、悪い場合は改善して、良い環境を整えることです。
 歯科においては、ムシ歯や歯周病の予防になることはもちろんですが、高齢者や有病者の方がとっては、口の中だけではとどまらず、全身の健康を守ることが出来る大切なものです。
 口腔ケアを必要としている人は、身体機能の低下に加え、多くの場合摂食(食べる)・嚥下(飲み込む)障害など、何らかの口腔機能の低下が認められます。
 高齢者の死亡率の半数を占める肺炎と感染症は、口の中や気道感染によるものです。施設に入所されている方など、抵抗力の低い高齢者の方々が集団で居住している場合、例えば肺炎、インフルエンザやノロウイルス等の感染予防として口腔ケアを行なうことを勧めています。
 口腔ケアには、大きく分けて2通りの方法があります。
 自分自身や介護者の方による「セルフケア」、そして歯科医師や歯科衛生士による専門的な口腔ケアを「プロフェッショナルケア」があります。
 「セルフケア」は、①適切な歯ブラシや歯間清掃用具を選択して、隅々まで綺 麗に清掃する。②ムシ歯を引き起こす甘味食品の量を制限し、栄養バランスのとれた食事をよく噛んで食べる。③全身のリラクゼーションを心がけ、顔面や口の中をよく動かして、摂食・嚥下のための良好な口腔機能を保つ。④フッ化物入り歯ミガキ剤を使用して、ムシ歯予防に役立たせる。⑤定期的に歯科健診を受けるなどがあげられます。
 一方、「プロフェッショナルケア」は、①ムシ歯や歯周病の状況を診て、全身 状態や口の中の状況に合った適切な口腔清掃のアドバイスをする。②日常的には清掃できない部位の専門的に歯面清掃する。③口腔機能の維持や回復を図るために機能的な口腔ケアをする。④食事指導・食事体位指導をする。⑤フッ化物洗口など、予防に関係する薬剤の紹介と正しい使い方の指導をするなど、歯科医師や歯科衛生士による専門的な口腔ケアが中心となります。
 口腔ケアの効果は、本来口の中に存在すべき細菌群が正常化され、誤嚥性肺炎 や風邪・インフルエンザ予防に、さらに口腔ケアの刺激により、嚥下反射(飲み込もうとする)、咳嗽([ガンソウ] 異物を気管に入れてしまうと、それを取り除こうとすること)反射が弱くなり、低栄養や脱水を改善し、免疫力を高めます。
 特に、誤嚥性肺炎は咳嗽反射と嚥下反射機能が低下して発症し、免疫力や粘液輸送機能の低下も関与しますが、もし誤嚥しても口腔衛生状態が良好で、免疫力があれば誤嚥性肺炎は発症しません。
 高齢者でも、一晩で50~150mlの唾液が産出されますが、普通であれば無意識 のうちに飲み込んでいます。
 多量の誤嚥物が気管に吸引された場合、その誤嚥物が細菌汚染されていたり、 低栄養による免疫機能の低下から肺炎が発症する危険性が高くなります。
 また、逆流性食道炎の場合も、胃液による強酸性により、重篤な化学性肺炎を 発症します。
 高齢者の肺炎による死亡率は、死因の3割を占め、その肺炎の中でも誤嚥による肺炎は4割を占めています。
 肺炎を起こさない、肺炎にならない体の環境作りに、口腔ケアを始めてみなせんか?