根面う蝕

平成28年1月11日(月) 掲載

高齢者の歯の病気と言えば「歯周病」で悩まれている方が多いと思われますが、意外にもムシ歯になりやすいというのをご存じでしょうか?  
 私たちの人生の内で、ムシ歯にかかりやすい時期が三度あります。
 最初は乳幼児の頃に乳歯が生える時、次は小学校に上がる頃、乳歯から永久歯に歯が生え替わり始めてから生え揃うまでの時期、そして最後は、歯グキが下がって歯の根の部分(歯根[しこん])が露出してくる中高年以降です。  
 先の二つの時期にできるムシ歯は、乳歯や永久歯が生え始める頃で、歯は質的にも幼弱で、ムシ歯菌が繁殖する環境(大人よりも体温が高く、プラークコントロールが十分に出来ない、甘い物が好きなど)などによって、奥歯の噛み合わせ面の溝の部分や歯と歯が隣接している部分などに、いずれも表面のエナメル質が侵されてムシ歯になります。  
 ところが、中高年以降の方では、歯周病などで歯グキが収縮して歯根が露出し、その周囲にムシ歯が出来ることがあります。
 このように歯根部分に出来るムシ歯ことを、「根面う蝕(根面ムシ歯)」と呼んでいます。  
 歯の構造は、大きく分けて歯冠(歯グキの上に出ていて、表面が硬いエナメル質に覆われている部分)と歯根(通常は、歯グキの中にあって、表面が軟らかいセメント質に覆われている部分)から出来ています。  
 年をとるに従って、歯グキはやせてきて(退縮して)、歯が長くなったように見えることがあります。  
 特に歯周病にかかると、歯グキの退縮が進み、健康な時には歯グキに隠れていた歯根が露出してきます。  
 露出した歯根部分は、エナメル質に覆われている歯冠部分に比べて、セメント質は軟らかく、表面がザラザラしているためプラーク(歯垢)や汚れが付着しやすく、酸に弱いためムシ歯になりやすい部分です。  
 「根面う蝕」は進行が速く、歯根を取り囲むように、更に歯グキの下の方にもムシ歯は進行してしまいますので、放っておくと歯が折れたり、化膿して腫れることもあります。
 また、ムシ歯の部分と健康な歯の部分との境界がはっきりしないため、ムシ歯を取り除くにも、どこまで削ってよいのか判断が難しいのも特徴です。  
 「根面う蝕」への対応としては、発見したら早期治療とそうならないよう予防することがとても重要になります。  
 予防には通常のムシ歯と同じ様にブラッシング(プラークコントロール)と、子供の頃のようにフッ素洗口が有効となります。  
 歯根の表面に付着したプラーク(歯垢)はムシ歯菌のかたまりで、これによって口の中の酸性度が上昇して、ムシ歯を作っていきます。  
 前述したように、歯根表面のセメント質は軟らかく、堅い歯ブラシや研磨剤の入った歯磨き粉で強く磨きすぎると、歯根表面がすり減ってしまい、ムシ歯を助長する場合がありますので注意が必要となります。  
 最近、歯グキがやせてきたとか、歯が長く見えるようになってきたと感じたら、かかりつけの歯科医院で正しい歯ブラシ指導と定期的なメンテナンスを受けられることをおすすめします。