生涯、自分の歯で食べるために

令和1年10月14日(月) 掲載

歯科医療の進歩により、ムシ歯や歯周病などにより歯を失った場合でも、審美的にも機能的にもある程度回復できるようになってきています。
 そのため「歯を失ったら入れ歯にすればいい」あるいは「インプラントもあるから、歯を磨かなくても大丈夫!」と気楽に考えている方がいるかもしれません。
 確かに入れ歯やインプラントは、現時点で歯を失っている方にとって最善の選択肢と言えるでしょう。
 しかし、残念ながら所詮は人工物、自らの歯に敵(かな)う訳もありません。
 特に、歯は体の中でも相当過酷な環境にある器官です。
 例えば、熱い料理を食べた後、直ぐに冷たいジュースを飲んだりして急激な温度変化があったり、固いお煎餅をバリバリ噛み砕く時に強い衝撃を受けたり、食事中何度も上下の歯を噛み合わせることなどにより、様々な負担がかかってきます。
 そんな状況下では、始めはピッタリだった修復物(詰め物や被せ物)も、時間の経過と共に必ず合わなくなってしまいます。
 一生履(は)ける靴が無いのと同じ様なものです。
 更には、自らの歯でも噛み合わせのバランスが悪いと、特定の歯に負担が大きくかかり、喪失する時期が早まってしまいます。
 実際、8020達成者(80歳で20本以上歯が残っている方)の殆ど多くは、歯並びや顎(あご)の骨格に問題がない方々なのです。
 歯並びや噛み合わせの治療である矯正治療は通常、保険診療の適応外であることから高額だと思われがちです。
 しかし長い目で見ると、きれいな歯並び(整った歯並び)は歯磨きがしやすく、それぞれの歯にバランスよく力(負担)がかかり、結果として歯の寿命が長くなり生涯の総合的な医療費を押さえられる可能性が高まります。
 歯を失っていても失っていなくても、口の中の環境を維持、改善するために歯科医院への定期的な通院が有効なのは明らかです。
 歯並びや噛み合わせに問題のある方は、早い時期にバランスのよい状態に整え、かかりつけの歯科医で管理していくことが、一生涯自分の歯で食べるための賢い選択だと思います。