介護、福祉の現場における歯科衛生士の役割 
~口腔ケアと誤嚥性肺炎~

令和2年4月27日(月) 掲載

お口の中の健康管理は、一般的には自分自身で行うブラッシング(歯みがき)などのセルフケアが中心になります。
 しかし、病院、施設、自宅で療養生活を送られている介護、福祉の現場では、セルフケアが十分に行えないため、歯科衛生士などの専門家による支援が必要とされています。
 誤嚥(ごえん=誤って飲み込むこと)性肺炎は、お口の中や咽頭部(のど元)に付着している常在細菌が気道に入り込むことにより発症します。
 健康な人であれば、たとえ細菌が気道に入り込んだとしても、気道組織の繊毛運動によって細菌が排除され、また免疫機能によって活動が抑制されるため肺炎を発症するまでに至りません。 しかし、高齢者やセルフケアができないような方の場合、摂食(食べる)障害や嚥下(飲み込む)障害により、むせたり咳き込むことで誤嚥(ごえん=誤って飲み込むこと)を引き起こします。
 加えて経口摂取が出来ない方の場合は、体力の低下などにより、細菌を排除する力が弱く、免疫機能も弱く、誤嚥性肺炎を発症することも少なくありません。
 しかしながら、様々なリスク因子が重なり発症する誤嚥性肺炎は、発症に至るまでの経緯に違いがあります。
 例えば、睡眠中に細菌が気道に入ることで引き起こされる不顕性(ふけんせい)誤嚥の発症が多いことが判っていますし、誤嚥性肺炎の既往歴のある高齢者では、治癒後も嚥下(えんげ)反射が低下するため、誤嚥のリスクが一層高まり、抗菌薬を主とした薬剤の服用だけでは根本的な対策にならないと考えられています。
 誤嚥性肺炎の発症率は年齢とともに増加し、それに伴い死亡率も高くなり、その90%が65歳以上の高齢者といわれています。
 これらの主な特徴は、若年者に発症する肺炎の感染は外因性によるものが多いのに比べ、高齢者の肺炎の多くは内因性によるものが多いことです。
 つまり、誤嚥性肺炎の予防法としては、内因性の原因除去に主眼を置くことが必要とされ、口腔ケアはその有効的な方法といわれています。
 口腔ケアを実施することにより、老人性肺炎の死亡率を半減することができるという研究データも発表もされ、口腔ケアや口腔リハビリによる予防の有効性が明らかになっています。
 以上のことを踏まえて、介護・福祉の現場での歯科衛生士の役割は、口腔ケアや口腔リハビリに関するコーディネーターとして、プロフェッショナルな専門的な口腔清掃の担い手として、誤嚥性肺炎予防の中心的存在になるものとされています。