良薬、400円のうがい薬

令和4年7月18日(月) 掲載

たかが歯、されど歯」我々歯科医療の現場でも日々多くの出来事に接する機会に直面します。今回は家族との絆がお口の健康にも効果を認めるそんなお話です。
 歯科医療の現場においても各ご家庭や、老人施設等に出向き歯科治療を行う訪問診療(歯科の往診)に従事する診療所が多く存在します。 昨今コロナ禍において多くの不道理な場面に虐げられる日常、老人施設でもコロナ禍における多くの不動利に直面しています。 施設に入所され日々普通の毎日を満喫されているご老人にとって家族との面会はどれ程の心の張りになる事か計り知れません。 そんな楽しみさえも新型コロナ感染症は奪い去ろうとしています。面会時間の短縮・ご家族とパーテンションにおける再会など考えられない光景を目の当たりにします。
 今日もまた歯科往診に出向き口腔ケアを行っていると一人のおばあちゃんの診察の番となりました。 狭苦しい車いすに陣取るように置かれたうがい薬、「息子から届いたうがい薬、これでうがいするから何でも噛める」と満面な笑顔。 どこの文献にも効果などの記載はないはずだが?後日再度診察、「息子から届いたうがい薬、これでうがいするから絶好調」といつもの笑顔にこちらまでも癒やされる診察。
 しかし数回後の診察時今日はおばあちゃんから満面の笑顔が消失、どうしたことか尋ねるとうがい薬がもう少しで底をつく状態に意気消沈。 うがい薬こそが息子様とおばあちゃんの絆でありどんな口腔ケアよりも効果抜群の良薬であったようです。日ごと食事量の減少及び口腔内状況の悪化と診療に苦慮する毎日でした。 そんなある日の診察、おばあちゃんの番、車いすに陣取った新品の同じ種類のうがい薬、もちろんおばあちゃんの最高の笑顔。「息子から届いたうがい薬、これでうがいするから絶好調」と。
 私にとっても心の梅雨明け宣言でした。後日歯科衛生士から400円のうがい薬の領収書が渡されました。 400円のうがい薬、おばあちゃんにとっては口腔ケアにおける最高の良薬であり心の安定剤であったようです。 陰で動いた歯科衛生士さん、後日500円の立て替え代金を支給しました。100円はおばあちゃんの笑顔代として。