8020のその後
令和5年7月3日(月) 掲載
80歳で20本の自分の歯を残そうという「8020(ハチマルニイマル)運動」も始まってから30余年が経過し、ずいぶんその認知度も高まりました。
現在では80歳の5割以上が達成者と言われています。お口の健康に対する個人の意識の高まりや、歯科医療関係者の努力などが達成率向上に大きく寄与していることは間違いありません。
達成率が向上することは喜ばしいことですが、今後加速する超高齢化社会においては、手放しで喜べない事情もあります。
高齢化によりやがて歯科医院へ通院することやブラッシングのようなセルフケアが困難になる時が訪れるかもしれないからです。
人生百年時代、最後まで自分の歯で食を全うすることが果たしてできるのでしょうか。
80歳では20本以上の歯を有する患者さんも、さらに年齢が進むと徐々に歯を失い、定期健診の受診が不定期になりやがて来院が途絶えるということは、
歯周病のメンテナンスをしている歯科医療従事者にとっては日常的なことですし、心を痛めることでもあります。
高齢者や要介護状態の患者さんのお口の健康を最期までどう守りきるかが8020達成後の大きな課題であり、着地点です。
介護に疲弊している家族や介護者・施設職員に高齢者の口腔ケアをすべて要求することは無謀です。
要介護者とどのように歯科医療従事者が関わってゆくのか、今まで8020の旗を振ってきた歯科医師会・厚労省の責任でもありますし今後の課題でもあります。
そこで重要な役割を果たすと思われるのが口腔ケアのプロである歯科衛生士です。
現在歯科医療の現場で働いている現役歯科衛生士以外に結婚・育児などで一度現場を離れた歯科衛生士にも歯科医療・介護の現場に戻ってもらえれば大きなマンパワーを得ることになると思います。
健康寿命と残存歯数の因果関係が明らかになったりお口の健康が全身の健康と深くかかわっていることが分かってきました。
一生自分の歯でおいしく食べられる喜びは人間の幸せや尊厳の根底をなすものです。
いずれ要介護になるのだから歯がないほうが良い、などと考えて安易に歯を抜くことは厳に慎むべきです。
人生を要介護前と後、2つのステージに分け、最初のステージでは自身の努力でしっかり歯の健康を保ち健康寿命を延ばし、
次のステージの要介護状態になったら歯科医療サイドや行政が知恵を絞って対応する、それが望ましい姿であると思います。
そのためにも元気な最初のステージのうちに信頼できるかかりつけ歯科医院を見つけ良好な信頼関係を構築しておくべきです。
そして自身が要介護状態になった場合のことをあらかじめ気軽に相談できる関係性が望ましいのではと思います。