歯のQ&A

令和元年10月17日(日) 東日新聞掲載

今、歯科医院で治療をしてもらっています。先日かぶせた物が入る予定だったのですが、うまく入りませんでした。『歯が動いてうまく入りませんので、もう一度型を取って作りなおしますね』と言われました。そんなことってあるのでしょうか?
(50代女性・主婦)

[回答者]
豊橋市歯科医師会・山崎敦史
 歯って常に動いているって、知っていましたか?
 歯周病が進んで、歯がグラグラな人はもちろん、そうではない、健康な歯ぐきの人でも、歯は、常に動いています。
 ただし、目に見えるほど動くわけではありませんよ。数マイクロの世界です。
 歯は、直接あごの骨にささっているわけではなく、歯根膜という、薄い膜が間に挟まっています。この膜の厚みが、200マイクロ㍍(0・2㍉㍍)で噛(か)んだ力が、直接あごの骨に響かないように、クッションの役目をしています。
 つまり、この歯根膜の厚みの中で、歯は常に動いているのです。
 この歯根膜ですが、歯ぐきの粘膜とつながっているため、歯磨きをおろそかにすると、簡単に炎症が波及します。すると歯根膜も腫れて厚みを増すことで、より一層、歯を動かします。
 病的な症状が無くても、歯は手前に倒れていく性質があります。
 全ての歯がそろっていて、隣の歯と緊密に並んでいるときは、問題ありませんが、すきっ歯の方や、何本か歯が無い方の場合、お互い支え合うことができないため、歯は、倒れていきます。
 そのため、歯のかぶせもの(冠・クラウンと言います)の型を採ったときは、歯が出来上がるまでの間、歯が動かないようにするために、仮歯や、仮の詰め物をするのが基本です。
 ただし、あくまで仮のものなので、ゆるんだり、外れたりすることがあります。
 そのため、前半で説明した、歯の動きやすい条件のそろった方の場合、作った歯が入らないといったことが起こります。
 少しの誤差であれば、その場での調整で、入れることができますが、大きくずれてしまった場合は、もう一度型を取りなおすのが妥当かと思います。
 合わないものを、無理して入れてしまう先生より、型を取りなおす先生の方が、丁寧な治療をしていると言えます。
 安心して通っていただいていいかと思います。