歯のQ&A

令和5年2月23日(木) 東日新聞掲載

先日、かかりつけ内科の先生より「新型コロナウィルス感染症による肺炎に注目が集まる昨今ですが、あなたは誤嚥(ごえん)性肺炎にも注意しなければいけません。定期的に歯科受診をすれば、それを防ぐことにもなるんですよ」と言われました。それって本当ですか
(70代男性)

[回答者]
豊橋市歯科医師会・山本隆司
 誤嚥性肺炎とは、口腔内や咽頭部に付着している常在細菌が、気道に迷入することで発症します。健康な人であれば、たとえ細菌が気道に入り込んだとしても繊毛運動による異物の排除が行われ、免疫機構によって活動が抑制されるため肺炎にまでは至りません。しかし、高齢者やセルフケアができない方の場合は摂食障害や嚥下(えんげ)障害によるむせやせき込みによって誤嚥性肺炎を引き起こします。
 例えば、不顕性誤嚥といわれる肺炎は睡眠中に細菌が気道に入ることで引き起こされることがわかっています。誤嚥性肺炎の既往歴のある高齢者では、治癒後も嚥下反射が低下するため、誤嚥のリスクが一層高まり、抗菌剤を主とした薬物療法だけでは根本的な対策にならないと考えられています。
 誤嚥性肺炎の発症率は年齢とともに増加し致死率も高くなり、死亡者のうち90%が65歳以上の高齢者といわれています。
 これらの主な特徴は、若年者の肺炎はウイルス感染などの外因性によるものが多いのに比べ、高齢者の肺炎の多くは内因性によるものが多いことです。つまり、誤嚥性肺炎の予防法としては、内因性の原因除去に主眼を置くことが必要とされ、口腔ケアは最も有効な方法となり得ます。口腔ケアを実施することにより、老人性ならびに基礎疾患を有する患者の肺炎死亡率を半減することができるという研究結果も報告されており、口腔ケアによる肺炎予防の有効性が明白になっております。
 以上のことを踏まえて歯科医療の主たる役割は、口腔ケアに関してもマエストロ的存在として、専門的な知識と技術の下に口腔内の環境改善を図り、我が国における高齢者の誤嚥性肺炎による死亡率低下かつ、ひっ迫する医療費の削減の一端を担う中心的存在になることであると考えています。